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キャッシュレスとスマートフォンの時代に向けた革小物 rethink「ニッチシリーズ」 - ITmedia

 今回紹介する「分かりにくいけれど面白いモノ」は、小さい革製品。だが、スマートフォンが生活の中心となったキャッシュレス時代に向けたものなのだ。

photo rethink「ニッチシリーズ」3点。手前「Less Wallet Pueblo」1万1000円、奥左「Key Purse Pueblo」6930円、奥右「Narrow Sleeve Rugato」7700円

 Appleのデジタルオーディオプレイヤー「iPod」のケースを世界で最初に世に放った1人、デザイナーの守川武氏の名前は、マニアックなガジェット好きや革小物好きの間では有名だ。

 単にiPodが入る革ケースというだけでなく、ベルトなどに通したままiPodを「操作可能な状態で」開けられるギミックを持つ、使いやすくカッコよいケースだった。

 その後、革製なのにiPod shuffleやiPod nano用のイヤフォンケーブルを巻くリールが内蔵されたケースなども製作。バード電子などが自社のロゴ入りで販売していたので、愛用していた人も多いと思う。現在も人気が高いバード電子のMacBook用レザージャケットも、守川氏のデザインだ。

photo 守川氏デザインのiPod専用ケース「Flippad」。ケースに入れて使うことが想定されていなかった時代だからこそ生まれた、ベルトなどに装着したままで操作できるギミック。この後、シリコンケースが登場して、iPodをケースに入れる時代が始まる
photo このiPod shuffleケース「Clippad Shuffle」も守川氏デザイン。イヤフォンのケーブルを背面に巻き付けられるギミック以上に、全体のフォルムのカッコ良さと、コバの丁寧で美しい磨きがすごい。バード電子でも販売していた

 その守川氏の革小物ブランドが「rethink」。文具好きには3本のペンをコンパクトかつ美しく収納できる「Lim Pen Sleeve」、ガジェット好きには、iPhone用革ケースとして世界で最もスタイリッシュな製品の1つである「iPhone Sleeve」でおなじみのブランドだ。

 最近パクり製品が増えている、500円玉を2枚収納できるキーホルダーも、rethinkの名作「Clipon Coin Holder」が元ネタだ。丁寧なコバの磨きや、薄く削いだ革を張り合わせる手法など、面倒な工程を踏んで作られる製品群は、人気に生産量が追い付かず、欲しいけどなかなか手に入らない人も多いと思う。

photo rethinkのiPhone用ケース「Lim Phone Sleeve」は今も、最新型に対応しながら継続している人気製品

 無駄のないデザインをなるべく少ないパーツで形にするrethinkの製品だから、昔からミニマムな使い方を提案する製品が多かった。

 キャッシュレスの時代が来るとは考えられてもいなかった時代に、薄さとコンパクトさに加えて、使い勝手を全く損なわない「Lim Wallet」を発売。現在もなお人気が続いている。

時代の2周くらい先を行く製品

 同時期に、名刺入れとメモ帳とカードケースを一体化してペンまで内蔵できる、ICカード時代のカードケースまで作っていたのだから、先見の明どころか、2周くらい先を行っている。そのrethinkがキャッシュレスとスマホの時代に向けて製作したのが、ニッチシリーズ。これ以上ないというくらいミニマムに作られた財布とキーケースとカードケースの3種類が、それぞれに補完しあうという、革小物の新しい使い方の提案だ。

photo rethink「Lim Wallet」2万9700円。3枚のパーツから作られた、フル機能の2つ折り財布。現在に至るまで小型財布のトップランナー的製品

 「『Lim Wallet』を作ったときには、かなり小さな財布を作ったと思っていたのですが、最近は、カードも3、4枚しか入れていないし、今となってはずいぶん大きく感じたんです」と守川氏。小さな財布を作りたいと思ったときに、頭にあったのは、エムピウの名作「ストラッチョ」だったそうだ。3つ折りの財布として、あれ以上の構造は考えられないと思ったと守川氏は言う。

 それは私も同感だった。「ストラッチョ」は、その構造があまりにも画期的な上に、ものすごくシンプルで簡単に作れるため、今や革だけでなくさまざまな素材で作られたパクリ製品が出ているが、あのパターンの最初は、エムピウの村上氏が考案したものだということは、ここで強く、言っておきたい。「Clipon Coin Holder」がrethinkのものだということも繰り返しておく。また、アブラサスの「小さい財布」も3つ折りのコンパクトな財布としてよくできている。

 「でも、自分が欲しいのはそういうものではないと思ったんです。やはり厚くなるのは避けたいので、2つ折りにしたい。ではどうするか、といろいろ考えました」と守川氏。

 実際、アブラサスも「薄い財布」は2つ折り、「小さい財布」は3つ折りで、中に入れるものが決まっている財布の場合、小さいと薄いを両立するのは難しい。

 守川氏が考えたのは、厚くなるのはコインのせいだということ。しかし、キャッシュレスとはいえ、まだまだコインは必要で、カードケースだけで生活するのは難しいと思ったからこそ、もう一度財布を作ろうと考えた訳で、コイン収納部を無くすことは考えられない。そこで、コインケースを2つに分けるというアイデアを思い付いて、実際に試作してみた。

photo 「Less Wallet」の初期の試作品。2つ折りにしたコインケース部と紙幣を差し込む部分だけのミニマムな構造。コインケース2つを平面上に並べることで、コインの収納枚数を増やしつつ、厚みを抑えた
photo カードケースも付けた「Less Wallet」の試作品。これだと大きいという守川氏の判断で、ここからさらにリファインしたものが製品となった

 「これは、かなり薄くできたし、うまくいったと思ったのですが、使っていると、スマホでの支払いに対応していない時など、カード入れは必要でした」と考えた守川氏はカード入れを付けたが、それだけでは済まさなかった。

 最初はカードケース部分に被せを付けていたのを外し、さらに、名刺は入れずカードだけ入れば良いということにして、全体を名刺より小さなサイズにした。このあたりの妥協の無さが、守川氏の真骨頂だろう。

photo rethink「Less Wallet Pueblo」1万1000円。この写真の革の色はラピス。他にマロン、カーキ、インクがある。カードケースにしか見えない
photo 「Less Wallet」を開いたところ。このように、コインケース部は2つに分かれ、その奥に折り畳んだ紙幣を挟む構造。カードは、裏側のスリーブに入れる。開く操作を片手で行えるのがポイントだ

 これでも満足しなかった守川氏は、コインケース部分の被せも外し、しかし、全く無いと開閉時にコインがこぼれるので、最小限の高さに変更。そうやってでき上がったのが、「Less Wallet」。パッと見は薄手のカードケースだが、表側を折り曲げるようにして開くと、中には2列に分かれたコインケース部があり、その向こうに4つ折りの紙幣が見える。カードは背面のスリーブに収まっている。そして、これだけコンパクトなのに、片手で開閉できて、財布の向きを変えずに支払いが完了する。

 この開いた時のインパクトに私は一発でやられてしまった。こんなに薄くて小さいのに、コインケースが使いやすいことにも驚いた。紙幣を4つ折りにする必要があるのが唯一の面倒なのだけど、1万円を超すような支払いはカードで行うことが当たり前になっているし、スマホを使った支払いもあるので、実は紙幣を使うことはあまりない。

 支払い時にはせいぜい2枚程度しか出さないし、お釣りはコインだけ収納して、紙幣は後で、ゆっくりと折り曲げて入れれば良い。その手間以上に、このアイデアに満ちた、そして小さくて薄くてカッコいい財布を使いたいという気持ちが勝っているので、ほとんど問題にならない。

 「もともと、最小限の財布としてデザインしていますから、紙幣数枚、コインは6枚×2、カード3、4枚しか入りません。財布としての機能は全く削ってはいないのですが、使うには慣れと、多少の面倒が必要です。財布として無理なことはせず、人に無理をかける設計ですね」と守川氏は笑う。

photo rethink「Key Purse Pueblo」6930円。写真の革の色はカーキ。他に、ラピス、マロン、インクがある。また、鍵を止めるビスの長さで、1本専用、1〜2本用、2〜3本用がある。当然、1本専用が最も薄い
photo 1段階開いて、鍵をビクトリノックスのナイフのようなギミックで引き出す

 ニッチシリーズのキーケース「Key Purse」は、見た目は普通のキーケースだ。やや薄いなという程度だろうか。しかし、開けてみると、そこにキーは無い。キーはその中にビス止めされていて、ビクトリノックスのように繰り出すのだ。そして、さらにもう1段階開くと、そこにはコインケース部がある。つまり、この製品はキー3本までと、コイン6枚、さらに紙幣2枚程度が入れられる、ミニマムなお出かけグッズなのだ。

photo さらに開くと、このように、2つ折りの紙幣とコインを入れるスペースがある

 「スマホと『Key Purse』で近所に出掛けられます。500円玉2枚に1000円札1枚を入れておいて、非常用としても良いし、『Less Wallet』と組み合わせて使えば、『Less Wallet』に入りきらなかったコインや紙幣を入れておくといった使い方もできます」と守川氏。

 私はキーホルダー代わりにrethinkの「Clipon Coin Holder」をずっと使っていたのだけど、ある意味そのバージョンアップ版ではないかと思った。この「Key Purse」なら、ポケットの中で鍵がジャラジャラいうこともないし、形だけでなく存在感も薄く、持ち歩いていてもポケットの形が崩れない。rethinkの製品は、どれも大体そうなのだが「見た目は普通で開くと変」という、その静かな佇まいも大きな魅力だと思うのだ。

photo rethink「Narrow Sleeve Rugato」7700円。写真の革がルガートのタイプは、外側がグレーのルガート革、内側が黒のベイビーカーフのパイカラータイプのみ。他に、プエブロタイプ(4950円)もあり、こちらは、他のプエブロ製品と同じ、4色展開
photo 「Narrow Sleeve」は、中が、スリーブ状のカードケースと、このように開く名刺スペースの2つに分かれている

 さらに、ニッチシリーズ、3つ目は「Narrow Sleeve」。1枚の革を3つ折りにして、名刺入れ部分とカードケース部分を分けたミニマムなカードケースなのだけど、これがまた、普通にカードケースにしか見えないし、実際、普通にカードケースなのに、これまでにない使い心地を実現しているから驚く。

 構造は簡単で、カードを数枚差し込むスリーブ部分と、L字型に空いている名刺入れ部分が1つにまとまっているというだけのもの。しかし、このL字型に開く名刺入れ部分の出し入れのしやすさが素晴らしいのだ。そして、カードケース部分は、「Less Wallet」に入りきれなかった、しかし持ち歩きたいものを入れる。これで両方合わせて8枚程度のカードが持ち歩ける。名刺は10枚程度収納可能。

 私は、この「Narrow Sleeve」を、外出先によって中を入れ替えて使っている。例えば、病院に行く際、診察カードと保険証、クレジットカードを出し入れする機会が多い。だからこの3つを名刺入れ部分に入れて、それを胸ポケットに入れておくのだ。これで、財布やスマホを取り出すことなく、スムーズに受付から支払いまでが行える。ショッピングモールでの買い物の際にも、必要なカードだけをまとめて入れておく。

photo ニッチシリーズを3つ重ねても、この程度のサイズ。キーケースはカバンに、財布はポケットに、カードケースは胸ポケットにといった感じで持ち歩くと、ストレスを全く感じない

 「『Less Wallet』、『Key Purse』、『Narrow Sleeve』は、それぞれがミニマムですが、相互補完するように作っています。3つ持っても、財布と名刺入れとキーケースを持ち歩くことを考えれば、とても省スペースですし、同時に使うというより、生活の中の小さな隙間をそれぞれが埋めて、さらにその隙間を別のニッチシリーズが補うという感じですね。この3つにスマホさえ持っていれば、ほとんどのシチュエーションに対応できます」と守川氏。

 ここ1カ月ほど、この3つを持ち歩いている私も、持っていることを忘れるくらい小さく軽く薄いのに、きちんとそれぞれの役目を果たしてくれることに感動すら覚える。

photo 例えば、「Less Wallet」は、こんなふうに縦にも横にも自立するので、机の上に置いておくのにも邪魔にならない

 とはいえ、ニッチはニッチなのだと守川氏は言う。「ニッチシリーズは、狭い範囲の人向けなのです。背広姿にはやっぱり長財布がバランスが良いんです。だから、フリーランスとか、そういう人向けですね。使う人もニッチな人で、モノ自体も隙間に入れるような構造ですから、あえて『ニッチ』と言うことにしました」

 確かに、ニッチな人に向けた、ニッチな製品だと思う。しかし、そこに仕掛けられたアイデアと、それを実現する構成力と技術は多くの人に対しても刺激的だ。革製品として見ても、この3つの製品が全て、1枚の革で構成されている、その設計の見事さに感動する。また、rethinkの製品全体の特徴でもあるのだけど、守川氏は試作品を自分で徹底的に使い込んで、小さな違和感も、見つけるとそれを放置せず、必ず改善している。

 例えばiPhone用のスリーブの、カメラ部分の突起によって革が引っ張られて、iPhoneの輪郭にケースがぴったり沿わなくなることを防ぐ裁断と縫製だったり、「Less Wallet」のコインケースを抑える被せの高さが、紙幣を入れたときにぴったりと紙幣を隠すようになっていたり、カードケース部分にカードを入れた状態でコインケース側から見たときに、ほんの少しカードの上端が見えるのが気になって修正したりと、本当に細かい、誰も気が付かないようなところまで手を入れている。

 革のすき方、真っすぐではなく少しだけ湾曲させて切ることで、中にものを入れたときに真っすぐになるといった細部の調整、ポケットからの出し入れ時に引っ掛かるところがないか、などなど。rethink製品の比類なきたたずまいのカッコ良さは、そういう細かなバグフィックスによって作られているのだ。

photo プエブロとルガートの質感の違いはこんな感じ。バケッタレザーにダメージ加工を加えたプエブロは、最初からかなりラフな感じで経年変化も早い。ルガートは、スムースレザーでスッキリした印象。価格差は革の価格の違いだ

 そして、その手間と革の品質に対し、価格がとてもリーズナブル。今回、ベルギー産のルガートと、イタリアのプエブロレザーの2種類。色は、プエブロは4色のバリエーション、ルガートは1色のみとなっているのだが、プエブロレザーだと、「Less Wallet」が1万1000円、「Key Purse」が6930円、「Narrow Sleeve」が4950円。ルガートだと、少し価格が上がって、「Less Wallet」が1万7600円、「Key Purse」が9900円、「Narrow Sleeve」が7700円。

 これ、本当に破格なのだ。革の個性としては、ややカジュアルなプエブロ、フォー万マルなルガートといった感じ。革の伸び方なども違うため、それぞれ微妙に製法も変えてあるのもすごいところ。個人的には、Less Wallet」と「Key Purse」はプエブロ、「Narrow Sleeve」がルガートという使い分けが気に入っている。

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